The 思考力 to クリエイティブ

東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方 2013/7/6上田正仁 (著)

現時点でこの世に存在しないものを「ゼロ」と表現し、「0ゼロから1イチを生み出すこと」をクリエイティブと呼ぶことがもしかすると一般的な解釈かもしれません。しかし、0→1をクリエイティブとするならば、現代社会にクリエイティブな人はほぼ存在しないことになります。

なぜなら、こんなにも豊かに発展をとげ終わった現代社会において「0→1クリエイティブ」は相当難しくなってしまいます。例えば、2019年時点で存在しない物体、例えば空気の変わりになる気体をゼロから作り出し、その空気の代わりとなる気体を吸えば全ての病気や怪我が治るとか、そんな信じられないくらい人の10歩も100歩も先をいくくらいの発想でものを作り出すことをクリエイティブと呼ぶとしたら、まず誰もが出来ないと思います。現時点で生活に必要なものは既にだいたい出来上がっています。例え洗濯機がなくても、水道の水が出て石鹸さえあれば衣服は洗えます。これ以上便利なものはもはや不要な時代かもしれません。

万が一、人の100歩も先を行く創造が出来たとしても、一体世の中からどれほど理解が得られるかも分かりません。もし、先ほどの病気が全て治る気体が、大発見!と大騒ぎになって一大ビジネスになるでしょうか? これほどにも発達した医療が手頃な費用で受けられる今や、多くの人には胡散臭く感じるビジネスかもしれません。

実際に、ピカソもモーツァルトも亡くなった後になってやっと人々が彼らの天才過ぎる芸術への理解を深め、死後何十年もかけてやっと誰もが認める「天才」という評価を得たくらいです。実際に現代のノーベル賞だって、過去数十年前に存在していた理論や薬を再度検討し直した結果だったり、改良した結果で受賞していますよね。なかなか「0→1クリエイティブ」は難しいでしょう。

そうなれば現代社会におけるクリエイティブとは、この世界のどこかに既に存在しているものをいかに上手に使いこなすかに定義があるように思います。つまり「1イチ→100ヒャク」だったり、「1イチ→1000セン」にするというイメージです。クリエイティブなのかSpread out 力なのか議論が残るところです。

もし現代社会におけるクリエイティブを「0→1000クリエイティブ」とし、アイディアを使いこなす技の事を指すのであれば、情報量を多く持つ人がクリエイティブな人の基盤になります。つまり、物知り博士が人々の悩みを解決するために何かを作り出すプロセスを指します。

例えば、生まれつき身体が弱かった我が子のために、ビジネスを専門とする親が世界中の家庭医療(Home remedyと言います)で用いられる食材や自然植物を集め子どもに試させているうちに子どもが元気になって、それを見ていた隣近所や親戚から分けて欲しいと言われ、そのうちそれが広まり、店舗を経営するとします。すると日本の遠くの方にも商品を届けるためにネットショップをオープンしてしまい、ついには、ロシアのHome remedyと韓国のHome remedyを混ぜ合わせて新種のお茶を作り出すかもしれません。そして、そのお茶が絶妙においしくて赤ちゃんからお年寄りまで好んで飲めるとします。

これを人は「クリエイティブ」と呼びませんか?

この方が最初にしたことは医者から身体を強くする方法はありませんと言われたとしても諦めずに、子どものためにまず世界中からめちゃくちゃ情報を集めたことです。諦めない力も素晴らしかったですよね?英語も出来なかったかもですが、翻訳ソフトを使ったかもしれません。

つまり、情報収集→試す・試行錯誤・考える→組み合わせてみる→新しいお茶を作り出した(クリエイティブ)という工程でした。

前置きが長くなりましたが、このプロセスこそがクリエイティブな人間を作る大事な人材育成過程だと著者の上田先生はおっしゃっているのです。書籍の中ですごく分かりやすいなと感じたのは「優秀さの尺度」です。これまで受験戦争を嫌々やってきたかもしれませんが、社会に出て意外に役立つ部分もあります。それはまさにこのプロセスを経てきた経験と時間です。

もっと言うと、過去全ての経験をポジティブに用いるのはその人次第なので、一概に受験勉強を毛嫌いする必要もありません。友達と遊ぶ時間や睡眠時間がなくなるほど受験準備に没頭しなくても良いとは思いますが、ある程度、人が成熟していく過程での目安として利用するのは良いと思います。強調して言っておきたいのは、優秀の尺度を誤って使用し誰か他人と比較したり、比較した結果で人間性の優劣を付けるためのツールではありません。あくまで尺度です。
例えば、高校生の時に習う歴史の授業ではとりあえず期末試験に合格しないと留年させられるというそんな危機的モチベーションで一夜漬けで試験対策を行った人は少なくないと思います。私もその一人で、歴史の試験翌日には既に忘れるほど記憶力は良くありませんでした。テストの時間のあいだもっただけでも良かった方です。

しかし、大学生になったころにテレビのニュースで「大きな経済的ダメージが日本に起きた!40年ぶりに日本経済のショックです!」と報道されたとします。まだ多くの大学生にはピンっとこないかもしれませんが、その時に初めて、「経済におけるショックって昔にもあったんだよなぁ。そーいや高校の歴史で習ったかもしれないな。」となります。この時に初めて詰め込んだ情報を元に思考しました。

さらに、これを大学院生になったときにもう一度この件を考える機会があったとします。すると、「他国の金融状況により日本経済が脅かされないような新しい通貨を作ってもっと経済を安定させよう。」と具体的な行動に発展するかもしれません。その時になって初めて、「他にどういう経済ショックが過去にあったかな?」「じゃあ、もうちょっと歴史を調べてみよう」とさかのぼります。なぜなら、せっかく新たに何かを作り出そうとしても既に誰かがやっていれば、それは特に新しい創造ではなくなります。なので、誰もが驚く発明や創造をしたときには特許などの出願によりその権利が守られる方法があるのです。

著者は一般的な学校で学ぶ体系とそれに必要な頭の使い方を分かりやすく表現しています。通常は順番に高校→大学→大学院と進学しますが、順番は逆でも飛び越えても構いません。学びたいと思った時まさに学びの時です。しかし、大抵は子どもの頃から「学ぶ」に対する積極的な姿勢や楽しい学び体験がないと大人になってからいきなり学びが好きになるというのは稀なケースかもしれません。

まとめると、クリエイティブな人になりたい!と思うのであれば、興味があることをまず見つけて、コツコツと勉強することです。まずは知るためにデータを集める→集まったデータから考えてみる→最後の最後にやっと創造力がついてくるのだと思います。長いプロセスですが、やれば誰だって出来ます。必要なのは興味と時間だけだと思います。そして、このプロセスの楽しみを知る人と知らない人で、人生のHappiness度合いにも影響しているように思います。これは個人論ですが、私の周囲にいる本物の研究者たちはみなHappyで楽しそうに生きています。

子どものように貪欲な興味力と調べる大人力。柔軟な思考回路。前回と合わせて私なりの How to be Creative to Happy life? に対する答えを出してみました。

コラム一覧へ

お電話でのお問い合わせはこちら

092-409-1417

Copyright © NEXT STAGE Co.,ltd. All Rights Reserved.