必死で健康をつかみ取る

「アメリカ人はジャンクフードを沢山食べて肥満や不健康の方が多いのかも・・・」そんな印象をお持ちかもしれません。そもそも圧倒的に人口が異なるので日本では見かけないような風貌の人間もたくさんいてカラフルですが、印象としてアメリカ人は運動が大好きです。平日のボールスポーツ、トレイルランニング(丘や小さな山など塗装されていない土の道の上を走る)に加え、週末になれば長距離ハイキングも楽しみました。出勤前の朝日を浴びながらの朝カヌーは最高です。普段職場では物静かな方も人は見かけによらないもので、実は腹筋が割れていたり、激しいロッククライミングやウルトラマラソン(100kmマラソンと障害物)に参加したりと低強度から高強度まで人々は熱狂的でした。カリフォルニアでもピッツバーグでも一般市民が一生懸命スポーツ活動に日々勤しんでおられるのを肌で感じました。私は大阪出身のノリもあって、比較的新しい環境への適応能力が高く文化に馴染みやすいと思います。カリフォルニアではテニス部とランニング部に、ピッツバーグではソフトボール部、サッカー部、テニス部に所属し交友を楽しみました。

部活動といえば少し想像画難しいかもしれません。サークルでもなく、ものすごく気軽な集まりです。FacebookやMeetUpとよばれるスマホアプリを使い仲間を集めるのが一般的です。例えば、急遽今夜自分が暇になれば「誰かこの町で、今晩テニスしたい人いない?」と募集をかけます。そして、募集をかけたいわゆる幹事が、集合時間の30分前ほど前に到着し公営のテニスコートに、コートが空いているかどうかを確認しに行きます。もし空いていなければ他の近くのコートを探しに行きます。場所や時間の変更があればアプリから参加者全員に一斉に伝える事が出来ます。私も友人も有料の公営テニスコートを見かけた事はありません。市民大会が開催されているなどを除いて通常の利用は無料です。予約制度はなく、空いていればその場で使用出来る、もし誰かが使っていればいつ終わるのか聞く、もしくは仲間に混ぜてもらう、などの個人交渉です。上級者集団に混ぜてもらえればこちらの上達が早くなるのでラッキーです。2−3回同じような会を開催すれば参加者はだいたい馴染みの顔になって来ます。こういう時、日本人の名前は珍しいのですぐに覚えてくれるので助かりました。そのうち気が合えば練習後に食事や飲みに行くようにもなりますよね。特に募集時に制限しない限り年齢層は幅広く、下は小学生から上は60歳のリタイア後の人生を楽しんでいるシニアまで、肌の色も違えば出身の国・言語も異なっていて楽しい会が多いと思います。どのようなバックグラウンドかはさておき、共通しているのは「ただスポーツが好き」「一緒にプレイしよう」と言うだけでそこには上下関係も差別も存在しませんでした。コートに入れば上手かろうが初心者であろうが、勝負です。皆さん一生懸命プレイします。私はスポーツが得意なので、まさにスポーツを通じた文化活動、「友達を作る」、「日常英語で会話をする」生活をアフター5で楽しむ事が出来ました。まさかで、所属したソフトボールチームが市大会で準優勝となり遠征大会にも参加しました。

そして一番大事なのはだれも年齢も体型も気にしていません。もちろん年齢差による体力の違いや、アスリート体型と肥満体型はあります。ただベテランならではの技術もあります。「元々、人間は全員異なって当然」という解釈なのでソフトボールチームの市民大会を勝ち進む際も特に問題になりませんでした。PM&Rスポーツメディスン科に受診される中高年スポーツ愛好家も同様に印象的でした。60歳のご夫婦が結婚記念日に二人の思い出の山へロッククライミングに出かけたいから軽度の変形性膝関節症へPRP注射を受けに来られたり、Stem Cell注射(幹細胞注射)を受けに来られたりと生活を楽しむためにスポーツ活動は生活の一部なのだと学びました。まさに生涯スポーツです。

ただそんな中、半ば強制的に運動を継続した結果運動器障害を負っている人々も少なくない事を知りました。痛みがあるのにそれを無視してでも過酷なスポーツによって体に負担をかけ続ける例です。「なぜそこまで必死になって運動するの?」と問うと興味深い返事が共通して得られました。1つは、悪い食生活を解消するための義務的な運動です。日々の健康管理のための運動をWork out ワークアウトと呼んでいます。一般的なアメリカ人にとって一般的な食生活は高カロリーだけでなく過剰な糖分も脂質も摂取しているからだと人々は分かっています。お金をかけてオーガニック食材を購入しない限り、ホルモン剤や化学飼料で育った鶏肉や豚肉を摂取するリスクはゼロではありません。もう少し正確に言うと、「オーガニック」とパッケージに記載されていても「本当のオーガニック」かどうかは懐疑的です。2つ目に低い日常生活動作量です。大都会で暮らさない限り公共の移動手段は日本のように便利に発達していないので各家庭に人数分の車がある程の車社会です。必然的に平日の日常運動量は低下しています。なので、週末の休みにまるで1週間の不摂生を取り戻すかのように必死になって運動をします。しかし、寝だめが出来ないように週末にいくら高強度運動を実施しても平日分を取り戻すのは非常に難しいでしょう。

しかしなぜ、人々が「健康を維持するために運動を継続しなければ」とまでおいこまれるかというと、医療保険制度の不十分な提供という文化的背景があります。2010年に共和党などの反対勢力を押しのけて法案が成立したオバマケア(国民皆保険を目指すもの)以前には、実はアメリカは先進国の中で唯一公的な国民皆保険制度がなかった国でした。現在でも医療費が最も高い国の1つであるからです。要は医療保険に加入がない状態で風邪一つを主訴に病院受診なんてしようものなら、多額な薬剤費の支払いが待っています。インフルエンザ疑いになっても私も私の友人も自宅でのremedyレメディ(家庭食材を使った緩和療法)で必死に粘った経験があります(日本国内には国民皆保険があるのでお勧めはしませんが)。このように国民皆保険がない国、地域ではこのような現象はよくある事です。普段からワークアウトに勤しみ家庭医学を使い必死に健康を掴む為に人々は必死なんです。国民皆保険が当たり前のように存在する我々には少し考えにくい事かもしれませんが、米国で医療機関を受診せずに重症化してしまう患者がいるように、コンビニのように医療施設を受診する事も国民皆保険がある国の副作用の1つかもしれません。日本人の健康度が高い理由に、やはり世界遺産認定の和食、普段から細かく動き回る習慣などが上げられます。ただ、日本でも便利な道具が増え、日常生活動作量が低下しつつある昨今、我々も必死になって健康維持を考えなければならない時かも知れません。

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